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REPORT 2019年度健康保険組合全国大会
特別企画シンポジウム
人生100年時代に向けた保険者の役割

2019年11月22日、全国約1,400の健康保険組合の代表者約4,100人が参加して「令和元年度健康保険組合全国大会」が開催されました。そのプログラム後半において「人生100年時代に向けた保険者の役割」をテーマにしたシンポジウムが行われました。データヘルスにより健保組合加入者の健康状態がデータ化され、健康経営に取り組む企業が増えるなかで、今後健保組合などの保険者は加入者の健康づくりにどのように取り組むべきか、シンポジニストの各立場からのプレゼンテーションが行われ、意見が交わされました。

東京国際フォーラム・ホールAにて開催

保険者の社会的役割が重要

江崎禎英 経済産業省 商務・サービスグループ政策統括調整官

最期まで人生を謳歌する社会づくり

 人類が神様から生物学的にあたえられた寿命は120年といわれています。男性では85%、女性で80%は80歳になるまで身体的に健康な状態を維持しているというデータがあり、健康であれば120歳まで自分のための人生をフルに楽しむことができる時代がきています。年をとれば体が弱って医療のお世話になる、医療費がかかって財政が大変になるという固定概念には縛られないことです。

 時代や社会環境の変化により疾患の原因は変化しています。ひとむかし前は感染症、いまは過食や運動不足、ストレスなどが原因となっており、老化型疾患が増えています。当然医療のありかたも変わっていきます。これからは予防医療が大切で、病気になる前に健康管理ができているかどうかで、決定的に予後が異なってきます。

 介護については、いままでお年寄りは弱いもの、支えるべきものという前提で制度をつくってしまいましたが、最期まで本人の自立した生活を目指すことを目標にすべきです。最期までお年寄りが社会とのかかわりをもって、誰かの役に立って「ありがとう」と感謝されるような社会をつくることが重要になってきます。

医療データにもとづくサービスの提供

 5年ぶりの全面改訂を目指している政府の「健康・医療戦略」では、①病気にならない、②重症化させない、③社会と切り離さないという3つの哲学を基本としています。

 人生100年時代を生きるのに最大の壁は固定観念に縛られていることにあります。これからは健康経営によって予防に力を入れ、健康管理に取り組みやすい環境を整えることが重要です。重症化を防ぐためには早いタイミングでくい止め、医療提供者の意識や医療の役割を変えていく必要があります。

 たとえ病気になったとしても社会と切り離さないで、いつまでも生きがいをもって生活を続けられるように支援し、重症者に対する手厚い医療・介護体制もしっかり整備していかなければなりません。

 そのためには公的保険だけでは難しいため、生涯を通じた医療データをもっているかどうかでアプローチは劇的に変わっていきます。医療データを蓄積して、それにもとづくサービスの提供を進めていくことが必要です。


データにもとづいた議論を重ねるべき

尾形裕也 九州大学 名誉教授

保険者の医療政策決定への関与

 健保組合などの保険者機能には保険料の設定・徴収、保険給付など基本的な機能に加えて、加入者の健康管理、健康づくりのための保健事業、医療の質や効率性向上のための医療提供側への働きかけがあります。

 これらに加えて「医療政策決定への関与」という機能があるのではないでしょうか。健康保険組合連合会は「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅳ」を公表し、保険給付適正化の課題を設定しています。

 保健事業の推進のためのベースとなっているのはレセプトの電子化および分析になります。これによってインフラ整備が進み、データヘルス計画の実施が容易となりました。今後情報をいかに開示し、提供していくのかは非常に重要な保険者機能となります。

 現在病院ランキング本が流行っていますが、国民の多くが保険者からの情報提供に満足していない面があるのかもしれません。アメリカではWeb上において病院の評価を示す星をつけて公表していますが、医療機関を選ぶための比較情報を充実させていく必要があると考えています。

 2018年度の国保改革は、医療供給面において非常に大きな意義がありました。都道府県単位で医療の需要と供給を考えるようになり、地域医療構想に保険者が必ず関与することが、医療法上に明記されたことは画期的なものでした。

 今後保険者が医療提供側と調整会議において議論を重ねていくためにはデータとエビデンスをもって、確かな意見を示していくことが必要です。相手は医療のプロであり、生半可な議論では有効な結果を得られないことを十分に認識すべきです。


三位一体で健康経営に取り組む

長谷川貴彦 ワコール健康保険組合 理事長

予防事業を中心にそえて運営

 ワコールの健康経営は、「ワコールGENKI計画2020」にもとづき5年単位で進めており、健康経営銘柄に選定されました。特徴としては従業員の90%が女性であり、顧客はほぼ100%が女性、乳がんと積極的に向き合うピンクリボン運動などには当組合としても大きな関心を寄せています。

 当組合の設立趣旨(1973年)に「従来の治療中心から健康開発、体力づくり、健診強化等の予防中心に脱皮する」「会社と労働組合が相協力して健康管理と健保組合の運営を行う」を掲げています。これが後の疾病予防重視や会社・労組・健保組合の三位一体の流れで健康経営に取り組んでいく推進力となりました。

 また健康経営に取り組むようになった背景には健保財政の窮迫や、社員の平均年齢への対応があります。当組合は2年前に保険料率を2%引き上げましたが、拠出金の支出に占める割合は50%と高く、厳しい状況が続いています。

 健康経営の具体的な取り組みとして、生活習慣病対策、がん対策、メンタルヘルス対策を中心に取り組んでおり、セミナーや健診はすべて就業時間内に行うようにしています。会社が求める人材像の中に「健康的で健全な生活習慣を実践できる人材」を明記しており、実際にそれを実践している社員は、仕事におけるパフォーマンス力も高いようです。

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